「シドニアの騎士」モデル販売のデータを見てみました

2014年11月10日 01:13

3DCGアニメシリーズ「シドニアの騎士」に使われたモデルが、有料、無料でダウンロードが可能と話題に。
シドニア堂

遅ればせながら、自分もダウンロードしてみました。

■はじめに
このモデルデータについて、SNS界隈で色々な意見が飛び交っているのを見ました。
このモデルを見ることで、学生さんやこれからトゥーン系アニメCGをやろうと思っている人がどのような視点で受け取ればいいのか。
一応、実写からトゥーンまで色々な仕事をしてきた自分としての意見も述べておこうかなと思いこの記事を投稿しました。
(※あくまでアニメ会社勤務サラリーマンの個人的感想です)

■会社によって、千差万別なモデリングの考え方
01_201411092351358ac.jpg
まず、フリーで落とせた3体を読み込んでみました。
造形等については、キャラクタデザイナーの意図、視聴者の好みがありますので私見は述べない事とします。

自分はゲーム会社やアニメ会社、フリーランスとして受注していた時期など色々な仕事を経験してきましたが、モデリングに関する考え方は驚くほど多様化していると感じています。
例えばハードエッジの是非。ポリゴン数の上限。シワの作り方。どれ以上のディティールからマップに頼るかなど、ひとつの会社で通用した技術が他の会社では全否定されるなんてことはよくあります。
そういった経験の中で、シドニアを制作されているPPIさんのモデルは「バランス派」だと感じています。

たとえば、細かい手のシワや血管の浮き出具合まで全てポリゴンで割る会社もあります。
逆に、AEで平面を貼り付けたりレタッチすることが前提で、とにかくディティールを作らない会社もあります。
よく「セルルックのモデルはシェーディングで見ると奇形に見える」という話を聞きますが、それは線を出す、フォルムを取るのに必要な情報以外なるべく省いているからです。

そういう視点で見てみると、上記画像はシェーディングで見てもおかしくは見えませんし、かといって細かいディティール全てがモデリングされているわけでもありません。
そういう意味で、トゥーンレンダリングの要素を入れながらもセルアニメのトレースではなく、CGプロダクションとしての経験を投入しようと、リアル系CG作品の考え方もブレンドしながら探っていったものと思われます。

■構造面
例として、口のメッシュをソフト選択で上げてみました。
02_20141110000714c3f.jpg
筋肉の流れに沿ったメッシュによって、綺麗に変形しています。
間逆の例ですが、最近話題になっている「ギルティギア」のメイキング記事が以下にあります。
GUILTY GEAR Xrd -SIGN-」で実現された「アニメにしか見えないリアルタイム3Dグラフィックス」の秘密
こちらで公開されているキャラクタのワイヤーフレームを見ると、口周りが大きく省略されているのが分かると思います。
セルルックではやわらかく変形したジオメトリの陰影を綺麗に維持する必要がなく、しかもギルティのように別ジオメトリーの法泉を転送したりというテクニックを使う場合もありますので、変形時の陰影よりもフォルムを優先してこのようなメッシュになっていると思われます
だからといってギルティの出来はよくないのか?と言われると、自分がプリレンダーで逆立ちしても出せないようなクオリティをリアルタイムでたたき出しています。感服です。

ちなみにCGWORLDさんで何度も特集していただいて画像が出ているのでいいますが、プリキュアの口元のメッシュ構造はシドニア寄りです。

他に、頬の流れについても触れてみます。
ピンク色の線で示したのは、キャラクタを正面から見た時に頬の輪郭となるラインです。
03_20141110002250068.jpg
ここはセルとリアルで結構違うところの一つで、セルでは頬の輪郭の印象を角度に依存せずある程度一定に保つ必要があります。
そのため、ピンク色で示したように、あごから頬にかけてのメッシュの流れがそのまま上に流れるようなトポロジーを組む時が有ります。
しかし、筋肉の流れからするとシドニアの方が正しく、シェーディングを考えると実はシドニアの例が理想のひとつだったりします。
このあたりの考え方は造形にも影響していまして、正面から見て耳が髪の毛で隠れていないキャラクタを作る場合、頬のラインよりも耳の付け根が内側にないと正面から見た頬の線が綺麗に出ません。
(耳を別モデルにするなどして対応もできますが)
そのため、どうしても2Dで作画設定があるキャラクタを3Dに起す場合、「箱系」と言われる、面を張り合わせたような四角い頭のモデルになることが多いです。
シドニアの場合、3Dシリーズに向けて新規に設定を起しているはずですので、そのあたりも考慮してキャラクタデザインが組まれていると考えられます。
実際、頬ラインの造形の考え方はセミリアルなキャラクタの考え方に近く、頬から耳にかけての陰影もなめらかにつながっています。
上手いなと思ったのは、そのような造形・メッシュ構造であるにも関わらず、正面から見た時に耳に向けての造形がトゥーンと相性の良い感じにまとまっているところです。

■プロダクションにおける「良いデータ」とは?
ここまでの記事で、簡単にですがセルとリアルで色々な考え方が違ってくるというお話をしてきました。
そのため、会社の文化によって否定的な意見が出るのはトゥーンである以上仕方が無いのかなと思います。

では、このデータから何を学べばいいのか。このデータがプロダクションとしてどのように優れいているのか。
このあたりを自分の意見で話していこうと思います。

・メッシュラインの統一化
ヒロイン二人のメッシュを並べてみました。
04_20141110003608cb2.jpg
この二人が顔の造形が近いというのもありますが、メッシュの構造が完全に一致しています。
データを見た方は分かると思いますが、UVも完全に同じものになっています。

・類似データの共通化
05.jpg
ブーツが分かりやすい例ですが、ヒロイン二人だけでなく、足先部分やソールの構造が近いものは、やはり近い構造で作られています。
これは、テレビシリーズという厳しいスケジュールの中で上手くデータを使いまわすというだけでなく、リグやアニメーション等下流の工程でも有用なポイントです。
手なども同じような構造が使いまわされています。
06_20141110004218376.jpg
例えばめんどうな指のジョイント配置。他に、手の形状が一致しているキャラクタ同士で、手のポーズの共有など後々効いてくる利益がたくさんあります。

フォトリアルなクリーチャー等では、むしろこのあたりを微妙にバラケさせることでリアリティを出してくなどの考え方もありますが、セルルック。しかもテレビシリーズという事を考えると、非常に優れたアセットマネージメントがされていると見受けられます。

「手のモデルを使いまわすなんて当然じゃないの?」と思うかもしれません。
しかし、キャラモデラーというのは自由な人間が多いので、きちんと仕様化しておかないと似たようなデータでもどんどん仕様がバラケて増えて行ったりするのです・・・

・UVについて
UVについても、基本的にほとんどのパーツが開かれており、1-1エリアに格納されています。
(一部例外もあるようですが)
09.jpg
これもとても大事なポイントです。
mayaはメッシュの表面情報を取得する際、UV座標をベースにすることがしばしばあります。
例えば、hairに使われているfollicleも、outMeshの情報とUVの座標を元にメッシュ表面のワールド座標を割り出しています。(うろおぼえですが)
他に、ペイントエフェクトでのブラシペイントなども、基本的には1-1エリアを出た時点で無効化されてしまいます。
(今のバージョンでは直ってるのかな?)
xGenなど最新の技術ではアトリビュートマップがptexベースになったりしてこのあたりの制限は大分少なくなっていますが、色々な面から考えて1-1エリアに納められるものはなるべく収めたほうが良いというのが経験上言えることです。


■(オマケ)mayaのpfxToonの問題点
3dsMaxを使われている会社などは、デファクトスタンダードになりつつある「ペンシル」を使っている会社が多いと思われ、mayaのToonはダメだと噂は聞いていても「何がダメなの?」と分かり辛い部分もあるかと。
せっかくなので、こちらのモデルを題材にmayaToonの悩みについて少し触れておこうと思います。
おそらくPPIさんはmayaを使いつつもmayaのpfxToonなど使っていないと思われ、上手く解決していることでしょう・・・汗

まず、ヒロインのモデルにpfxToonをアサインしてみました。
このくらいの太さなら、まだ見れます。
07_20141110005246903.jpg

線を少し太くしてみます。
08.jpg
ここまで太くするかは置いておいて、まず緑色の囲いを見てみてください。
mayaのToonはメッシュです。そのため、太くすると服の下にあるジオメトリーの線が上に突き出してきます!!
他に、青で囲ったところのようにディティールのあるエリアはダマになりまくってぐっちゃぐちゃになります。

こうなった場合どうするかというと、自分の場合はAEで手マスクを切って1フレームごとに消してきます。
ええ、もう気が狂いそうですよ。

他にも色々とmayaToonの問題点は存在していて、正直自分は、インハウスでラインの開発をするか、ラインだけでもキャッシュで持っていってmaxでレンダリングしたいと思っています。

映像を見ている限りシドニアではそのようなガバガバなエラーは見受けられず、上手く処理しているものと思われます。


■さいごに
トゥーンとリアルは文化が違います。
会社によっても文化が違います。
もうこれは一種の宗教のようなものです。

繰り返しになりますが、特定の会社で通用した技術が転職した瞬間全否定されることはよくあります。
なので、シドニアのモデルを見て「これが正解」「これがダメ」と決め付けるのではなく、「こういうやりかたをしている会社の1例がタダで見れた」と、ありがたく享受しておけばいいのでは。と思います。

このモデルを見た学生さんは、造形やメッシュの出来不出来よりも、優れたアセットマネージメントによる「仕様がちゃんとしてるプロのデータ」を作る必要性を感じていただければと思います。

Zbrushでごりごりしただけのデータで就職しても、ここでつまずいて「使えない新人」になる例は最近多いようです。
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